小児および成人の斜視の治療と研究、小児の弱視の治療と研究に取り組んでいます。小児においては視機能(視力および両眼視機能)の発達を最大限にすることを目標として診療にあたり、後天性の斜視においては原因精査を他科と連携しながら迅速に対応しています。また、患者さんがお困りになっていることを詳細にヒアリングしながら、患者さんの希望に沿った治療を進めています。
術後の立体視獲得のため、JCHO中京病院 眼科では生後8ヶ月以内の超早期手術を推奨しています。しかし、斜視角が大きくない、斜視角に変動がある、などの場合は、プリズム眼鏡での経過観察を行うこともあります。いずれにしても、早い時期から手術またはプリズム眼鏡にて眼位を矯正することが、よりよい両眼視機能の獲得に重要であると考えます。
好発年齢は2~3歳と言われていますが、1歳未満で生じる調節性内斜視もあります。屈折検査は調節麻痺点眼を用いて行い、手持ちレフラクトメーターでの測定が困難な低年齢の患者さんにおいても医師が検影法にて検査を行い眼鏡処方します。眼鏡を常用しても内斜視が残存する部分調節性内斜視の場合は、プリズムを用いた眼位矯正を行ったのちに必要に応じて手術治療を行います。orthoptic effectと言われますが、斜視手術をする前にプリズムで眼位を矯正し両眼視できる状態をつくっておくと手術後の眼位も安定しやすいと報告されており、JCHO中京病院 眼科では積極的に術前にプリズム治療を行っています。
日本人で最も多い斜視のタイプです。両眼視機能は良好に発達している場合が多いため、斜視になる頻度に応じて就学前後〜小学校低学年で手術を計画する場合が大半です。間欠性外斜視の中でも、A型やV型、開散過多型や輻輳不全型などそれぞれの状態に応じて手術方法を選択します。とくに斜筋異常を伴うA型斜視やV型斜視においては斜筋手術を併用することで、第一眼位だけでなく、上方視および下方視の斜視も矯正します。両眼視できる範囲をいかに広くするかを常に考え手術方法を選択しています。
片眼性の先天性上斜筋麻痺は健側への斜頸を特徴とし、そのまま成長すると顔面非対称や側湾症など骨格に影響が生じるため、斜視角が測定できれば早期に手術またはプリズム眼鏡での治療を行います。下斜筋過動を伴う15プリズム以下の上斜視に対しては下斜筋切除術を行い、20プリズム以上の大角度の上斜視を有する症例では、下斜筋切除術に加え必要に応じて上斜筋腱縫縮術などを行います。
近年話題になっているのが、スマートフォンなどのデジタルデバイスの過剰使用と内斜視の関連です。日本弱視斜視学会および日本小児眼科学会が全国的な調査を行っており、JCHO中京病院 眼科もこの研究に参加しています。
ほかに後天性斜視の原因として、甲状腺眼症、重症筋無力症、麻痺性斜視、固定内斜視などがあげられます。
他科と連携をとりながら、迅速に診断することを心がけています。また、麻痺性斜視に対しての西田法、固定内斜視に対しての横山法など、日本人医師が開発した優れた術式も施行しています。
先天白内障、発達緑内障に対する手術治療および弱視治療を行っています。網膜硝子体専門医や緑内障専門医が精度の高い手術を行い、斜視弱視専門医が屈折管理および弱視治療を行います。
穂積医師の論文“Relationship Between Suppression Scotomas and Stereoacuity in Anisometropic Amblyopia With Successfully Treated Visual Acuity”(investigative ophthalmology & visual science 2023 Aug 1;64(11):16. doi: 10.1167/iovs.64.11.16.)が、第80回日本弱視斜視学会総会において学会賞の中でも最高賞である弓削賞を受賞し、同総会で弓削賞受賞記念講演を行いました。この賞は、前年に公開された原著論文のうち、将来の日本の弱視斜視診療および研究を担っていくことが期待される若手医師または視能訓練士に贈られます。研究テーマを与えていただくとともに、多大なるご指導をいただきました矢ケ﨑悌司先生にこの場を借り厚く御礼申し上げます。
斜視グループでは、以前から取り組んできた「Kinectを用いた頭部姿勢評価システムを用いた研究」、「眼窩角についての研究」を現在も進めており、第80回日本弱視斜視学会総会において、市川翔医師が「Kinectを用いた頭部姿勢評価システムにおける測定時間による影響」、横山吉美医師が「正常小児における眼窩角の人種差の検討」を発表しました。また、JCHO中京病院眼科の羽柴視能訓練士が、日本弱視斜視学会・日本小児眼科学会 合同講習会において、「乳児内斜視の検査」について講演しました。ほか、・「小児白内障手術における全身麻酔下と覚醒下検査とでの術後屈折誤差の比較」(穂積医師、第80回日本眼光学学会総会)・シンポジウム「スムーズな診療科連携を目指して本音で語る② ~皆さんの素朴な疑問に本音で答えます~眼科のホンネ」(横山吉美医師、第33回日本外来小児科学会年次集会)・インストラクションコース ABC から始めよう!小児眼科 「乳幼児健診と小児眼科」(横山吉美医師、第78回日本臨床眼科学会)を発表しました。中でも第33回日本外来小児科学会年次集会のシンポジウムでは、近年、小児科クリニックに携帯型レフラクトメータ「スポットビジョンスクリーナー」が普及しつつあり、その検査の結果で「要受診」となった乳幼児が眼科に受診する機会が増える中、患者さんを受け入れる眼科の対処の方法や小児科医と眼科医のよりよい病診連携をテーマに講演しました。
横山吉美医師が登壇した第33回日本外来小児科学会年次集会のシンポジウムでは、生後1ヶ月健診において検影法によるred reflexの確認を行うことの重要性についてもお伝えしました。参加された先生方からは、各々が所属されている医療機関でも今後導入していきたいとお聞かせいただき、小児科の先生方の熱意を感じることもできました。JCHO中京病院では、小児科の医師らに向けた勉強会を行い、10月からred reflexの確認を実施していただいております。
前回のアニュアルレポートでもご案内させていただきました通り、2026年に開催の第82回日本弱視斜視学会総会は横山吉美医師が会長を務めさせていただきます。
開催日:2026年6月5日(金)および6日(土)
開催場所:Niterra日本特殊陶業市民会館(名古屋市中区金山)
学会のテーマは、“Keep Growing, Together”です。弱視斜視診療の患者さんの半数以上は小児です。患者さんの成長を見守るという意味と、これからの弱視斜視診療を担う若手医師の教育、そして自身らもまだまだ成長するぞ!という三つの思いを込めました。学会ご参加後翌日からの診療にすぐに活かすことのできる学びの多い、そして将来の夢に向かって進むためのモチベーションにつながるような学会にすることを目標に計画を進めています。ぜひご参加いただけますと幸いです。