網膜剥離、増殖糖尿病網膜症などを中心に多数の硝子体手術を行っています。グループ全体での手術件数は毎年約1500件で、全国有数の実績があります。当グループの特長として、ほぼすべての硝子体手術で顕微鏡による広角観察系システム(Wide Viewing System)に加え眼内視鏡を使用している点が挙げられます。Wide Viewing Systemと眼内視鏡を併用することで、眼内の術中観察において死角がなくなり病変の見落としを避けることができ、より高精度の手術が可能になります。また、通常なら眼球を圧迫しないと観察できない部位も眼内視鏡で直接観察できるため、術中の眼球圧迫を必要とせず、患者さんの疼痛や手術侵襲の軽減にもつながります。眼内視鏡の操作にはある程度の習熟が必要で、海外を含めても一般的に普及している状況ではありませんが、眼内視鏡操作を習熟することで大きな利点を生み出すことが可能です。我々が使用しているスモールゲージ(25、23G)の眼内視鏡(日本製)は現時点で欧米では未認可のため、海外の術者に比べ大きなアドバンテージがあります。アジアでも眼内視鏡併用硝子体手術に注目が集まっており、2019年には台湾、ベトナムの眼科学会に加賀達志医師が招待演者として招かれ、眼内視鏡併用硝子体手術の特別講演を行いました。JCHO中京病院などでは毎日硝子体手術が行える体制を整えており、網膜剥離など、緊急を要する疾患は早急に治療し良好な術後成績を得ています。
症例 | JCHO中京病院 眼科 |
岐阜赤十字病院 眼科 |
飯田市立病院 眼科 |
中京眼科 | その他 |
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増殖性糖尿病性網膜症 | 48件 | 1件 | 5件 | - | 7件 |
網膜剥離 (増殖性硝子体網膜症を含む) |
172件 | 73件 | 39件 | - | 5件 |
水晶体再建術 (眼内レンズ強膜内固定・ 眼内レンズの機械的合併症など) |
124件 | 31件 | 9件 | 2件 | 15件 |
黄斑手術(黄斑前膜・黄斑円孔・ 網膜硝子体牽引症候群・黄斑浮腫など) |
175件 | 71件 | 74件 | 1件 | 142件 |
黄斑下手術 | 16件 | 5件 | 2件 | - | - |
硝子体置換術 | 46件 | 1件 | 13件 | - | 6件 |
硝子体混濁 | 89件 | 40件 | 25件 | - | 14件 |
眼外傷 | 11件 | - | 1件 | - | - |
眼内炎 | 12件 | - | - | - | - |
その他 | 5件 | 41件 | 30件 | 28件 | 21件 |
合計 | 698件 | 263件 | 198件 | 31件 | 210件 |
眼内視鏡は網膜剥離の手術において大きな利点を生み出します。顕微鏡に加えて眼内視鏡を用いれば、頭位を大きく変えることにより網膜下液の排液が裂孔の位置にかかわらず可能となります。眼内視鏡がない場合は意図的裂孔の作成やパーフルオロカーボンの使用が必要となり、新たな侵襲が加わります。また眼内視鏡を使用することで手術中の眼球圧迫が不要となり、痛みも少なくなり、患者さんにやさしい手術が実現できます。眼内視鏡により微小裂孔の発見も可能となり、当グループでは98.4%の初回復位が得られたことを報告しました(横山ら, Clin Ophthalmol. 2017)。またしばしば治療が困難な増殖性硝子体網膜症(難治性網膜剥離)に対しても眼内視鏡を使用した空気置換下硝子体切除で良好な網膜復位が得られ、米国の網膜硝子体専門誌に報告しております(加賀ら, Retina. 2019)。
加齢黄斑変性の治療は抗VEGF抗体硝子体注射が主となりますが、網膜下に大出血をきたした重症患者さんの治療は困難を極めます。加賀達志医師は眼内視鏡の利点を生かし、従来治療困難であった網膜下血種に対する新しい手術を考案しました。網膜下に眼内視鏡を挿入し直接血種を除去するという非常に斬新な方法で、従来の顕微鏡手術のみでは不可能な手技です。結果も比較的良好なため国際的にも高い評価を得ました(2017年米国眼科学会で横山翔医師が発表しBest of Show in AAO受賞、加賀達志医師が2019年米国Retina誌に報告)。
転移性脈絡膜腫瘍の切除においても網膜下内視鏡手術が有効と考えられます。本術式により眼球摘出することなく、眼球の温存が可能となった例があります。術後視力、生命予後ともに改善し、患者さんにとって良い結果が得られました(加賀ら, Retinal case reports. 2021)。
IOL強膜内固定は国内外で急速に広まっており、今後も増加が予想されます。当グループでは吉田医師が中心となり、新しい強膜内固定術用眼内レンズを開発しました。従来のレンズに比べ、固定が容易で術後の安定性も増すことが期待されています。ヨーロッパではCEマークをすでに取得しており、本邦でも今後販売予定ですが吉田医師はこのIOLを用いた新しい術式を米国の学会にて発表し、グランプリを受賞しました(2014 ASCRS Film Festival "Instruments & Devices/IOL" Grand Prize)。また三田村医師が中心となり複数の術式を比較する研究を開始し、さらなる術式の改良を目指しています。
両疾患ともに多数の手術を施行し良好な手術成績が得られております。
研究面では森医師が数年にわたり補償光学網膜イメージングカメラrtx1™を用いて黄斑円孔の修復過程をモニタリングする研究を行い、国内外で報告しております(2019,AOO、2020,日本眼科手術学会)。
黄斑円孔の手術にはバリエーションがあり、手技の違いが視細胞回復に与える影響を検討することで最善の手技を模索しております。
以前は治療が困難な難治性緑内障の代表でしたが、現在はアーメド緑内障バルブやバルベルト緑内障インプラントを使用することで良好な成績が得られています。これらのロングチューブによって良好な眼圧下降が期待できますが、前房内チューブ挿入は角膜内皮障害のリスクがあるため、我々はチューブの硝子体腔挿入を選択しています。この硝子体腔挿入はチューブ挿入後の先端の確認が困難となる場合がありますが、全例で内視鏡による硝子体切除、先端確認を行っているためチューブ閉塞などの合併症の予防が可能です。内視鏡を併用したチューブ挿入によって難治性緑内障に対しても良好な成績が得られ、松田医師は2020年にその結果をロンドンで発表しました(International Congress on Glaucoma Surgery 2020)。
中京グループでは糖尿病黄斑症や網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫に対して、ナビゲーションレーザーを用いた治療も行っています。国内ではまだ十分普及していない最新のレーザー機器であり、マニュアルでは不可能な高精度のレーザー照射ができるため、新たな治療の可能性が期待されています。佐藤医師、三田村医師が担当しておりますが、佐藤医師は国内有数の実績を有し、学会や論文にて多数の報告をしております(2020,日本網膜硝子体学会総会)。
飛蚊症の中で、後部硝子体剥離に伴うワイスリングによるものはYAGレーザーによる症状改善が可能となりました。比較的新しい技術であり、本邦へ導入される際に国内外の施術実態調査・新たな応用の検討・治療技術の向上を図る目的でレーザービトレオライシス研究会が発足しました。中京グループからも多数の医師がこの研究会に参加しており、市川一夫医師は世話人、加賀医師は監事を務めています。低侵襲で症状の改善が得られますが、適応患者さんを慎重に選び施行しています。
眼内視鏡には、顕微鏡観察系にはない様々な特徴がありますが、その特徴の一つに「対象に接近して観察することによる拡大効果」があります。近接内視鏡はこの性能に特化しており、対象への接近時に優れた視認性を発揮します。元々は網膜下内視鏡手術への使用を目的として開発された内視鏡ですが、他の手術への応用について加賀医師より課題が出され研究を開始しました。通常の内視鏡は、内視鏡プローブ先端の対物レンズの作動距離(レンズ先端から対象物までの距離)が5mmに設定されていますが、近接内視鏡では作動距離が3mmもしくは1.5mmに設定されています。このため、対象物との距離が5mm以下になると通常内視鏡ではぼやけて見えますが、近接内視鏡では鮮明な映像が描出されます。逆に対象から離れるとぼやけるため、広範な硝子体切除などには不向きです。
実際の症例においては、通常内視鏡と近接内視鏡を組み合わせて、用途により適切に使いわけることで、より安全性の高い手術が可能と考えています。我々は増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術において、網膜に強固に癒着した増殖膜に対し、近接内視鏡観察下での処理を試みました。近接内視鏡を網膜に接近させ、増殖膜の下を覗くように観察すると、増殖膜と網膜との癒着部位やepicenterなどが詳しく描出されました。
このように組織構造を把握しながら慎重に操作を行うことで、意図しない出血や裂孔形成などを回避し、安全に増殖膜処理を行うことができました。この報告はRetina誌で評価され、New instrumentsのカテゴリーに掲載されました(Retina : Dec, 2020)。近接内視鏡は他にも、網膜に付着した残存硝子体の確認や、裂孔原生網膜剥離における微小裂孔の特定、緑内障手術における隅角観察など様々なシチュエーションにおける有用性が確認されています。手術の要所に使用し、拡大効果により視認性を改善させることで、より手術精度を上げるための観察システムに成り得ると考えています。また、ファイバーテック社より焦点深度を深くすることで幅広い観察が可能となった新しい内視鏡が開発されました。今後は近接内視鏡の使用経験を生かして、この内視鏡を用いた新たな研究を予定しています。
我々は術中フルオレセイン蛍光眼底血管造影(以下、術中FA)が可能な眼内視鏡システムを試作しました。
この眼内視鏡システムを用いたFAは、硝子体出血や硝子体混濁、重度の白内障といった術前にFAによる眼底評価が困難な患者さんに対して、術中に眼底を評価することができ、また通常のFAでは評価が困難な網膜最周辺部、虹彩裏面、隅角、網膜下といった部位についても評価することが可能と考えています。
将来的には加賀医師の開発した網膜下内視鏡手術での応用が可能になると加齢黄斑変性の病態把握や治療に大きなブレイクスルーをきたすのではないかと期待しています。
UMIN試験ID:UMIN000042733 臨床試験公開日:2020年12月17日
2020年12月より、JCHO中京病院 眼科において眼内レンズ強膜内固定手術施行後の臨床成績の調査を前向き研究で開始しました(今後、佐藤裕也眼科医院、飯田市立病院 眼科などでも研究を開始する予定です)。
本研究では、以下の3種類の手術方法を用いて眼内レンズ強膜固定手術を施行します。
①網膜硝子体班で開発した内視鏡を用いたシングルニードル法による強膜 固定(Ophthalmic Research誌において2020年8月にアクセプトされました)
②ダブルニードル法に準じた方法
③T-fixation techniqueの変法
術後の眼内レンズの傾斜・偏位を測定することで、手術精度を比較し、今後の眼内レンズ強膜内固定の手術方法の改善・進化に結びつけたいと考えています。
対象症例は、白内障術中の合併症症例(チン小帯断裂など)、眼内レンズ偏位・落下症例、水晶体脱臼症例などになりますので、該当する患者さんがおられましたら、ぜひ当グループにご紹介をお願い申し上げます。
JCHO中京病院 | 岐阜赤十字病院 | 大雄会第一病院 | 飯田市立病院 | 総合青山病院 | 中京眼科 | 佐藤裕也眼科医院 | 中村眼科 | こもろ医療センター 浅間南麓 |
斎藤眼科 | |
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硝子体手術(網膜剥離・増殖性硝子体網膜症・ 増殖糖尿病網膜症・硝子体出血など) |
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黄斑下手術(加齢黄斑変性・網膜細動脈瘤破裂) | ● | - | - | - | - | - | - | - | - | - |
眼内レンズ(IOL)強膜内固定 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | - | - |
黄斑手術 (黄斑上膜・黄斑円孔・硝子体牽引症候群など) |
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血管新生緑内障ロングチューブシャント手術 (アーメド緑内障バルブ・バルベルト緑内障インプラント) |
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黄斑浮腫に対するナビゲーションレーザー | - | - | - | - | - | ● | ● | - | - | - |
レーザービトレオライシス | - | - | - | - | - | ● | ● | ● | - | - |