様々な黄斑・網膜硝子体疾患(黄斑前膜、黄斑円孔、硝子体牽引症候群、硝子体混濁・出血、網膜剥離、増殖性糖尿病網膜症)に対して、硝子体手術を行っています。当グループの硝子体手術の特長は、顕微鏡による広角観察系システムに加え、眼内視鏡を術中の観察に使用している点です。
また、私たちが用いている日本製の眼内視鏡はスモールゲージ(27G、25G、23G)のものがありますが、欧米では23Gまでのものしかなく、海外の術者と比較しても大きなアドバンテージがあります。
一方で、眼内視鏡下で行う硝子体手術は通常の顕微鏡下で行う硝子体手術と手技的に異なる点が多く、眼内視鏡の操作は一定程度以上の習熟度が必要であるため、眼内視鏡を用いて硝子体手術を行うことができるサージャンは多くありません。しかし、硝子体手術の際に眼内視鏡を併用することで様々な利点が生まれるほか、中には眼内視鏡を使わなければできない手術手技も存在します。
当グループでは眼内視鏡を用いて硝子体手術を行うサージャンが複数在籍しています。
網膜剥離の手術において眼内視鏡は大きなメリットを生み出します。顕微鏡に加え眼内視鏡を用いて手術を行い、頭位を大きく変えることにより、裂孔の位置にかかわらず網膜下液の排液が可能となります。それに比べ、眼内視鏡がない場合は意図的裂孔の作成やパーフルオロカーボンの使用が必要となり、新たな侵襲が加わります。また、眼内視鏡を使用することで手術中の眼球圧迫が不要となり、患者さんにとっての痛みの緩和につなげることができます。眼内視鏡を使用することによって微小裂孔を発見することもでき、当グループでは98.4%の初回復位が得られたことを横山翔医師らが報告しました(Clinical outcomes of endoscope-assisted vitrectomy for treatment of rhegmatogenous retinal detachment. Clin Ophthalmol. 2017 Nov 14; 11:2003-2010)。
多数の黄斑手術を施行し良好な手術成績を得ることができています。研究では、森医師が数年にわたり補償光学網膜イメージングカメラrtx1™を使用し黄斑円孔の修復過程をモニタリング、その結果を国内外で報告しています。黄斑円孔の手術にはバリエーションがありますが、手技の違いが視細胞回復に与える影響を検討することで、最善の方法を模索しています。
Acute macular neuroretinopathyの診断及び経過観察にrtx1が有用であった1例
第55回日本網膜硝子体学会、森俊男医師ほか
補償光学眼底カメラrtx1を用いた硝子体手術後の視細胞変化の観察
眼科臨床紀要 第9巻 第8号 695ページ(第432回東海眼科学会抄録);2016 森俊男医師ほか
ほか、森医師はrtx1™のメーカーであるImagine Eyes社のUser‘s Symposiumやミーティングに参加し報告を行っています。
硝子体混濁・出血、増殖性糖尿病網膜症など
眼球を圧迫しないと観察できない部位も眼内視鏡で直接観察できるため、患者さんの疼痛や手術侵襲の軽減につなげることができます。また、眼内の観察が困難な角膜混濁や術中の眼内レンズ結露などの症例でも安定した眼内観察ができ、確実な手術手技を行うことができます。さらに眼内の術中観察における死角がなくなり、病変の見落としを避けることができ、より精度の高い手術につなげることができます。
黄斑浮腫に対するナビゲーションレーザー
糖尿病黄斑症や網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫に対して、ナビゲーションレーザーを使用する治療も行っています。国内ではまだ普及していないレーザー機器ですが、マニュアルでは困難な精度の高いレーザー照射ができ、新たな治療の可能性が期待されています。佐藤医師が国内有数の実績をつくり、学会や論文で多くの報告をしています。
糖尿病黄斑症のナビゲーションレーザー格子状光凝固と血管瘤への直接凝固の効果の比較
眼科臨床紀要 第15巻 第1号 22-27;2022、佐藤裕之ほか
網膜中心静脈閉塞の黄斑浮腫に対するNAVILASの効果
眼科手術 Vol.33 No.3 442-447;2020、佐藤裕之ほか
網膜静脈分枝閉塞症の黄斑浮腫に対するナビゲーションレーザー治療の長期経過
第43回日本眼科手術学会学術総会 一般講演12 網膜硝子体「手術成績」、佐藤裕之ほか
糖尿病黄斑症のナビゲーションレーザー格子状光凝固と血管瘤への直接凝固の効果の比較
第59回日本網膜硝子体学会総会 一般演題 学術展示、佐藤裕之ほか
飛蚊症の中で、後部硝子体剥離によるワイスリングは、レーザーによる症状の改善が可能です。国内への導入時に、実態調査や新たな応用の検討、治療技術の向上を図る目的で「レーザービトレオライシス研究会」https://laser-vitreolysis.net が発足しました。
この研究会において、4名の世話人のうちのひとりを市川一夫医師が務め、中京眼科は臨床研究参加施設になっています。
中京眼科では、2023年から佐藤裕之医師、横山翔医師、森俊男医師3名の硝子体サージャンが非常勤として加わり、日帰り硝子体手術の充実を図りました。これまでに行われてきた硝子体混濁や黄斑前膜などの比較的軽い症例から、裂孔原性網膜剥離、黄斑円孔といった液ガス置換が必要な症例を含むほとんどの網膜硝子体疾患に対応することが可能です。
また、様々な手術設備と内視鏡を組み合わせた硝子体手術を特徴とし、安全で質の高い日帰り硝子体手術を行うことに努めています。
■中京眼科での2023年疾患別硝子体手術件数
症例 | ERM | MH | IOLSF | OCV | VH | RD | その他 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
件数 | 34 | 2 | 25 | 17 | 7 | 3 | 1 | 89 |
ERM…黄斑前膜 MH…黄斑円孔 IOLSF…眼内レンズ強膜固定 OCV…硝子体混濁
VH…硝子体出血 RD…裂孔原生網膜剥離
※網膜剥離や黄斑円孔は少数例ですが、全例で網膜復位、円孔閉鎖が得られました。
デジタル顕微鏡ARTEVO800(Carl Zeiss社)
3D4kモニターを通して見るデジタル顕微鏡システムです。解像度の高い映像の描出が可能であることに加え、従来の鏡筒を覗くスタイルに切り替えることもできます。付属の術中OCTは、リアルタイムで黄斑形態を把握し、様々なシチュエーションでの有用性が報告されています。
内視鏡には多くのメリットがあり、そのひとつとして裂孔原性網膜剥離における内視鏡手術の初回復位率が高いことを横山らが報告しています。手術終了時に網膜を360度にわたって見ることにより、裂孔などの見落としを防ぎ、より安全に手術を終了することができます。
強膜内固定用眼内レンズ“NX70CH”は、ループ形状の支持部に特徴があります。この支持部により、引き抜き操作を簡単に行うことができ、また抜け落ちにくいことで、短時間でより安全な手術を可能にしています。2023年は22例25眼(前年比156%)に対してIOLSFを施行し、術後3か月での平均BCVA 0.97±0.41、平均屈折誤差-0.10±0.83、平均IOL最大傾斜率8.59±4.00と比較的良好な成績であったと考えます。
※参考)術後合併症
IOL偏位1例2眼(8%、91歳認知症症例)、硝子体出血1例1眼(4%)
中京眼科では、tPAを活用した黄斑下手術など新たな取り組みも開始するなど、引き続き硝子体手術にも注力していきます。また、研究の面では、NX70CHを用いた手術について学会報告や論文作成などに取り組む予定です。
今後も研鑽を重ね、常に知識や技術のアップデートを図り、良質な眼科医療の提供に努めます。
当グループでは、教育の一環として多くの若手医師に手術指導を行ってきました。眼内視鏡硝子体手術手技のマスターを希望される先生方の受け入れも行なっています。ご希望の方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報ください。
ご連絡先:yokoyama@chukyogroup.jp 横山翔宛