アレルギーによる結膜疾患、ドライアイ、角膜炎、翼状片や羊膜移植・角膜移植など角膜と前眼部の疾患を対象に診療と臨床研究を行っています。その時々における最先端の技術を積極的に取り入れることに努めています。それにより、日常的に遭遇する疾患から希少で稀な疾患まで、患者さんにとっての治療の選択肢をより多く準備することを心がけ、患者さんそれぞれに応じた治療の提案を目指しています。
角膜移植は、角膜の悪い部分のみを取り換えるパーツ移植が主流になっています。当グループでも、光学的角膜移植としては全層角膜移植(PKP)、深層層状角膜移植(DALK)、角膜内皮移植(DSAEK)から症例に応じて術式を選択しています。また、角膜穿孔や感染性角膜炎、角膜輪部機能不全などの原疾患の治療を目的とした治療的角膜移植として、角膜表層移植(LKP)、角膜輪部移植(LT)を行う場合もあります。
羊膜移植術は以前から行ってきた術式ですが、2014年に保険収載されたことを契機にガイドラインが整備され、施設基準と術者基準が設けられました。羊膜移植は、幅広い疾患に適応があり、例えば角膜穿孔を閉鎖する場合、結膜腫瘍や増殖性の強い再発翼状片などの手術でできた広範囲の結膜上皮欠損を補う場合、角膜輪部機能不全などによる遷延性角膜上皮欠損に対して正常な治癒を促す目的で行う場合などに施行しています。
一昔前の円錐角膜は有病率が1万人に1人で難病指定されているほど希少な疾患と考えられていましたが、トポグラフィーの発達や屈折矯正術前スクリーニングの向上により、最近の研究では100人に1人は疾患を有している可能性があると考えられ、円錐角膜の早期発見とその進行予防が最重要課題となっています。当グループでは、トポグラフィーなど各種検査を用いて、特に屈折矯正手術術前の患者さんや検診で指摘され乱視が進行しているような小児などで積極的にスクリーニングを行っています。その上で、進行性の円錐角膜に関しては、ハードコンタクトレンズを含めた特殊コンタクトレンズ、角膜内リング(ICRS)、欧州において最近注目されているクロスリンキング(CXL)など、必要な場合に他施設とも連携を取りながら、治療法の選択肢を提示しています。
重症で視力不良例では、角膜移植術を施行しています。
また、学会では角膜を専門分野とされていない先生方に向けて、早期発見の重要性について啓発活動を行っています。
感染性角膜炎は、塗抹鏡検・角膜擦過培養・薬剤感受性・PCR検査によって、病原体をできるだけ特定し、適切な治療法を選択できるようにしています。特に、真菌性角膜炎やアカントアメーバ角膜炎などは難治性であることが知られ、治療に有効な市販薬は限られます。そこで、これらの症例には、より効果的な治療を行うため、市販薬とともに倫理委員会の承認を得た自家調剤点眼薬も併用しています。また、重症の感染性角膜炎の場合は、感染が硝子体内に及んでいることも稀ではありません。当グループでは網膜硝子体を専門とする医師と連携し、必要に応じて硝子体手術を行っています。
ドライアイ研究会の提唱する涙液の層別治療TFOT(Tear Film Oriented Therapy)の考え方を軸に、その所見と自覚症状、また患者さんのライフスタイルなどを考慮して、患者さん毎のオーダーメイド治療を行っています。治療には、各種点眼薬や自己血清点眼、涙点プラグや涙点焼灼による涙点閉鎖術、症例によってはマイボーム腺マッサージや温罨法を提案しています。マイボーム線機能不全(MGD)は、高齢者のドライアイのリスクファクターになることが知られており、その有病率は加齢と共に高くなります。これまでMGDに根本的な治療はありませんでしたが、皮膚科・美容領域でフォトフェイシャルや脱毛分野などに使用されている光刺激治療「Intense Pulsed Light(IPL)」がドライアイ・MGDに対しても有効であることが近年多数報告されており、当グループでも積極的に施行しています。
アレルギー性結膜疾患(アレルギー性結膜炎、アトピー性角結膜炎、巨大乳頭結膜炎、春季カタル)のうち、増殖性変化を起こし、重症化しやすいのが春季カタルとアトピー性角結膜炎です。免疫抑制点眼薬(シクロスポリン、タクロリムス)の発売に伴い、最近では薬のみでコントロールできる症例が多くなってきました。薬物療法を行う際には、プロアクティブ療法の考え方を基本にしています。薬物療法でもコントロール不良な症例では、ステロイドの瞼結膜下注射や、結膜乳頭切除、シールド潰瘍掻爬といった外科的な治療を併用しています。また、患者さんの希望により、原因となる抗原を調べ適切なセルフケアの指導も行っています。
翼状片手術では、遊離結膜弁移植または有茎弁移植を併施し、低い再発率を実現しています。再発翼状片などで特に増殖性の強い症例では、マイトマイシンCの術中使用や、羊膜移植、角膜表層移植(LKP)を組み合わせて手術を行うこともあります。その他、結膜弛緩症や結膜腫瘍などの手術も行っています。
2023年2月にマイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction:MGD)診療ガイドラインが作成されました。50歳以上の日本人のうち10~30%がMGDであるとされ、その有病率は加齢とともに増加することが知られています。MGDはマイボーム腺組織の脱落や蛇行といった形態変化をみとめ、様々な眼不快感を生じるとされます。
■80歳代、MGD患者
眼瞼縁不整、粘膜皮膚移行部の前方移動、マイボーム腺開口部のpluggingがみられ、眼瞼を圧迫すると練り歯磨き状のmeibumが圧出される。マイボグラフィにて、マイボーム腺の短縮と脱落がみられる。
これまで、MGDの根本的な治療法はありませんでしたが、近年では皮膚科・美容領域で利用されてきたIntense Pulsed Light(IPL)と呼ばれる光線療法の有効性が多数報告されており、当グループでも温罨法や眼瞼清拭といったホームケアと並行して積極的に治療に取り入れています。
IPLは、マイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis-related keratoconjuntivitis:MRKC)や、霰粒腫といったMGD類縁疾患への治療にも効果がある可能性があり、今後も注力していきたいと考えています。
羊膜移植術は、結膜腫瘍や翼状片(特に再発翼状片)手術後に結膜上皮欠損が認められる場合や、角膜穿孔や角膜上皮欠損が遷延化して実質融解が進行した場合など、多様な病態に対して行っています。難症例やトラブル症例に選択することも多いため、角膜・前眼部手術においては心強いサポート役となっています。
羊膜移植術の実施認定施設は全国でも少なく、国内における羊膜移植術の統計的な既報はわずかです。そのため、JCHO中京病院 眼科で施行した羊膜移植術を検討することで、市中一般病院における羊膜移植術の内容と有用性を評価しました。
その結果、遷延性角膜上皮欠損、眼表面再建に伴う角結膜上皮欠損を治療対象とした症例が多く、これらの症例では再手術率も比較的高いことを報告しました(長谷川ら、角膜カンファランス2023)。